【理事のつぶやきシリーズ】
河野です。
66年連れ添った伴侶を昨年末に亡くして、今は高齢者専用住宅で一人住まいをしている93歳の父を車に乗せて、私は亡き母の納骨のために埼玉に向かった。
生まれて初めての父との二人旅だ。
膝が悪いので歩行はもっぱら手押し車のお世話になっている。立ったり座ったりも一人では危なっかしい。
それでもまだ車椅子のお世話にならず、ゆっくりゆっくりだが自力で歩くことができる。紙パンツのお世話にはなっているが、トイレにもかろうじて自力で行ける。
様々な状況を想定して必要と思われる物や着替えはたっぷり車に詰め込んだ。ホテルもバリアフリーの部屋を予約した。
大変だろうけど、きっとなんとかなる。そう自分に言い聞かせて出発した。
どこのパーキングエリアにもバリアフリートイレはあったが、汚れたズボンを履き替えさせるには、自分で敷物を用意しないと着替えさせることはできなかった。
汚れたオムツを捨てるゴミ箱はあったが、持参したビニール袋と新聞紙に私が包んであげないと、後の方に不愉快な思いをさせてしまう捨て方しかできない状況だった。
手すりもあるにはあったが、父の得手じゃない位置に設置されていると、結局私の介助が必要だった。
手洗い所に石けんは設置されているがペーパータオルもエアータオルも無く、私のタオルを差し出してあげないと、手を拭くことはできなかった。
普段から、まだまだ自分のことは自分でできると豪語している父だったが、それは使い慣れた自宅でのことで、旅先となるとそうはいかない。
ホテルでもしかり。確かに部屋に段差は無く、バスルームもそれなりの仕様になっていたが、父を湯船に入れるのは想像以上に大変だった。
ほんの数㎝浴槽の縁が高く、父はすんなりとまたげないのだ。
転んでは一大事。私は汗だくになりながら父を湯船に入れた。
「あ~気持ちいいなぁ」と何度も何度もつぶやく父を横目で見ながら、『さてどうやったら安全にお湯から出して上げることができるだろう』と私はずっと考えていた。入浴はホント、大仕事だった。
翌日、無事に納骨を終えてほっとしたのもつかの間。最期の関門、帰途のドライブミッションが残っている。
その日はあいにくの雨で碓井峠は霧。高速道路の霧は恐ろしい。父を乗せての運転で緊張もマックスだ。なのに後部座席からは父の暢気な声。
「ここはどこ?」「次はどこで休憩する?」「お昼は何食べる?」しゃべりっぱなしだ。たまらず私は耳の悪い父に向かって大声で叫ぶ。
「お父さん、ごめんね。雨と霧で運転大変なんだよ。お父さんの命を預かっているから。申し訳ないけど運転に集中させて」
「はいはい、もう黙っています」
そんなこんなで何もかもが想像を超えた父との2泊3日だったが、なんとか無事に父を自宅に送り届けた。
「やっぱり家が一番だぁ」父は自分の椅子にどかっと座ると清々した声をあげた。
そして荷ほどきをしている私に向かってこう言った。
「次は新幹線でお墓参りに行こう」
私が絶句したのは言うまでもない。
#りじつぶ#高齢者の旅